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烏龍(おりゅう)と遺龍(いりゅう)

烏龍(おりゅう)と遺龍(いりゅう)

 

「遺龍よ、そなたは私のあとを継いで立派な書道家になれ。そしてよいか、私の亡き後もけっして法華経だけは書写してはならんぞ」

当代きっての書道家といわれた烏龍は、息子遺龍にそう言い遺して死んでしまいました。

遺龍はその後も努カを続け、父に劣らぬ書の名人となりました。

 

遺龍の名人ぶりを聞いたその国の王さまは、

「遺龍とやら、そなた法華経の経文を書け」

そのように命じました。すると遺龍は、

「亡き父の遺言てす。他の文字なら喜んで書きますが法華経だけはお許しください」

深く頭を下げて辞退しました。しかし、国王は遺龍の願いを聞いてくれません。

「ならぬ。国王の命今が聞けぬというのなら、そなたの首を刎ねてしまうぞ」

遺能はやむにやまれず、「妙法蓮華経巻第一」から「妙法蓮華経巻第八」まで、表題の六四文字を書いてしまいました。

「ああ、お父上はどんなにか私の不孝をお怒りのことだろう...」

 

その夜、遺龍は夢を見ました。

まぶしい光の中から一人の天人が現われて遺龍に告げました。

「私はそなたの父、烏龍だ。私は仏教を謗った罪で地獄に堕ち、苦しんでいた。ああ、なぜ息子にあんな遺言を遺したのかと悔やんておったが、きのうの朝、不思議なことに、それはそれは尊い姿の一人の仏さまが私のもとに現われて、ついに六四人になられた。聞けば仏さまはみな、遺龍よ、そなたが書いた法華経の文字だとおっしゃる。仏さまは私の苦しみを救って下さった。遺龍よ、 よくぞ遺言を破ってくれた。ありがたいことだ」

 

父の苦しみを救った遺龍は、その後、熱心な法華経の信者となりました。