長爪梵士
長爪梵士
むかし、摩訶拘絺羅(まかくちら)という、たいへん頭のいい男がおりました。
摩訶拘絺羅は議論が得意で、だれと言い争いをしても負けたことが ありません。ところがあるとき、お姉さんと議論をして、あっという問に負けてしまいました。
(不思議なことだ。お姉さんはいつのまに、こんなに頭がよくなったんだろう。これはきっと、お姉さんのおなかの赤ちゃんが、すごく頭がいいんだ。さっきの議論は、赤ちゃんのしわざだ)
ちょうどそのとき、お姉さんは、赤ちゃんを身ごもっていたのてす。
(生れてくる赤ちゃんに再挑戦だ。今度は負けないぞ)
摩訶拘絺羅は、その日のために難しい本をたくさん読みました。議論に負けた梅しさを忘れないために、
一度も爪を切りませんてした。いっしか爪は長く伸び、人は彼のことを「長爪梵士(ちょうそうぼんじ)」と呼びました。
それから十六年。いよいよ決戦のときと、摩訶拘絺羅はお姉さんのもとを訪ねました。
「お姉さん。あのときのおなかの赤ちゃんはどこへ?」
「ああ、舎利弗かい。あの子はお釈迦さまの弟子となりました」
「えッ。では、お釈迦さまは舎利弗よりも頭がいいのですか?」
そこで摩訶拘絺羅はお釈迦さまのところへ行きました。
(舎利弗でさえ強敵なのに、その先生のお釈迦さまとは・・・)
お釈迦さまに会うやいなや、摩訶拘絺羅はお釈迦さまのと尊いお姿に感動してひれ伏し、手を合わせて拝みました。
お釈迦さまは、やさしい目をして言いました。
「議論の勝ち負けにばかりこだわっていては、いけない。まっすぐにありのままを見てごらん。真理が見えてくる」
それ以来、摩訶拘絺羅はお釈迦さまの弟子となり、まじめに修行しました。
舎利弗は「智慧第一」と呼ばれ、摩訶拘絺羅は「問答第一」と呼ばれ、ともに 立派なお弟子となったのでした。