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門番のあとつぎ

 むかし、インドのガンジス河のほとりに、とてもさかえたバラナ国という国がありました。国の人びとは、仏さまの教えをうやまう心がうすく、そのためにたいへん悪い法がおこなわれていました。それは、この国の男の人 が60歳になると、家を長男にゆずり、自分は、やっと座れるほどの小さな敷物と、わずかな食べ物をあたえられて、その家の門番にならなければならないという、ひどいものでした。

 

 この国のあるところに、女房にはやく死にわかれ、まずしく暮らしなが ら、一生懸命に働いて、のこされた二人の子どもを育てあげた男が住んでいました。 男は、まずしいながら、男手ひとつて二人の息子をりっぱに育てあげたことに満足しながら、暮らしていました。

 

 やがて、その男、いつのまにか60という歳をむかえました。長男は、さっそくこの国の習慣にしたがって、おとうさんを家の門番にしなければならなくなりました。

「弟よ、敷物をさがしてきて、おとうさんにあたえなさい」

と、兄は弟に言いつけました。兄とちがって思いやりの深い弟は言いました。

「兄さん。 それはあんまりです。 おとうさんは、おかあさんが亡くなったあと、わたしたちを育てるのに、 どんなに苦労したか、知っているでしょう。 おねがいです、おとうさんといままでどおり、一緒にくらしましょうよ」

 それを聞いた兄は、頭を横にふり、

「いやいや、そういうわけにはいかない。 これからはわたしがこの家をつぐのだ」

「兄さん、お願いです。 おとうさんがかわいそうです」

「これは国の定めなのだ。 弟よ、はやく敷物をさがしてきなさい」

 

 弟はとても悲しく思いましたが、国の定めとあればしかたがありません。 物置小屋から、一枚の敷物をさがしだし、半分に切って、その小さな敷物をおとうさんにあたえました。

「おとうさん。 これは兄さんのいいつけです。 悲しいことですが、おとうさんは、今日から家の門番になってもらわなければなりません」

 弟は涙を流しながら、兄の言いつけをおとうさんにつたえました。

 そのようすを見ていた兄はふしぎに思いました。 弟が、敷物を半分に切って、おとうさんにあたえたからです。

「弟よ、おまえは、なぜ敷物を半分しかおとうさんにあたえないのか?」

とたずねましたすると弟は、

「家には、そんなにたくさんの敷物はありません。 これ一枚だけです」

「一枚あればよいではないか」

「兄さん、たった一枚しかない敷物をぜんぶおとうさんにわたしたら、あとでいるようになったとき、困るではありませんか」

 兄はますますふしぎに思って

「あとで必要なときに困るというけれど、そんなものを、いつ使うことがあるのか。 みんなわたしてしまえばよいではないか」

それを聞いた弟はにっこりわらって、

「兄さんも頭がにぶいですね。残りの半分は兄さんがいるようになるんですよ」

「なにぃ!それはどういうわけだ。 いつわたしが使うというのか」

「それは、兄さんが60歳になったときですよ。 そうなれば、兄さんも子どもに家をゆずって、門番にならなければなりません。そのときに、敷物が一枚もなかったら、兄さんの子どもがこまるではありませんか。」

兄はおどろいて弟をみつめ、

「そうか、わたしも60になったら、その半分がいるようになるのか…」

と、思わずためいきをもらすと、弟はすかさず言いました。

「あたりまえじゃありませんか。そのときになって、だれが兄さんにかわって門番などする者がありますか」

 

 この言葉をきいた兄の心は、だんだんしずんでいきました。 それを見ていた弟は、いかに国のさだめた法とはいえ、そんな悪い習慣にしたがって、 自分をそだててくれた、 たった一人のおとうさんを、平気で門番にすることは、たいへんな親不幸であり、これをつづけていけば、やがては、自分の身にもふりかかってくるのだということを、兄に話すのでした。

 

 兄は弟の手をにぎり初めて自分のあやまちを深く反省して、ついに意を決して、弟とともに国の大臣のところにいき、どうかこんな悪い法はやめてくださいと訴えました。

 兄弟のまごころにうたれた大臣は、さっそくこのことを国の王さまにつたえ、悪法はあらためられました。

 その後、この国の老人たちは、やすらかに一生をおくることができるようになったということです。