まわりを山にかこまれた美しい湖がありました。そこには、いつのころからともしれず、一匹のふるいカメが住んでいました。
ある年の真夏のことです。空にはまぶしい太陽がギラギラと照りつづけ、 一滴の雨もふらず、いつのまにか青く美しい水も、すっかり干あがってしまいました。
さすがのカメもこれには大へん困って「どこかに水たまりはないだろうか」と、 あたりをキョロキョロと探しまわりましたが、もともと足のおそいカメは、自分の力では遠くまでいくこともできず、ほとほとよわりこんでしまいました。
「雨が降らないかなぁ…」
とうらめしげに空を見あげました。 しょげこんだカメの気持ちも知らぬように、太陽は今日もわがもの顔に照りつづけていました。
「ながい間この湖で住んできたが、自分の命も、もはやこれまでか……」 と、すっかり水のなくなっ た湖をながめて、あきらめたように、ため息をつきました。
そのとき、バタバタッと鳥の羽の音が聞こえまし た。
「なんだろう?」
カメは思い首を持ち上げて、あたりを見回しました。みるとそれは一羽の大きなツルでした。
「これこそ天の助けだ!」
と、大よろこびで元気のなくなった体をひきずるようにしながら、やっとの思いでツルのそばに歩みよりました。
「ツルさん、いいところへきてくれました。助けてください。お願いです」
「カメさんいったいどうしたのですか…」
「雨が一滴もふらず、見てください、湖の水がすっかりなくなってしまいました。このままでは、私は死ぬのを待つばかりです。 おねがいですから、どこか水のあるところへつれていってください」
それを聞いたやさしいツルは、たいへんあわれに思い、カメの願いを聞いてあげました。
やがて、ツルは口ばしにカメをくわえて、 大空たかく舞いあがりました。野山をこえ、川をわたりいくつかの町もすぎました。すっかりあきらめていたカメも
「よかった。 これで助かりました。 ツルさんありがとう!」
と、いつもの元気がでてきました。
カメは今までこんなに高く空を飛んだことはありません。下をみれば景色の美 しさに舌をまいておどろきました。それに命が助かったという喜びで、すっかり安心をしたのでしょう。 カメはひとりで、はしゃいでおります。
「ツルさん、ここはどこですか?」
「あれはなんでしょう!」
と、しきりにたずねるのです。ツルはカメを口にくわえているので、
「うっうっう…」
と返事はできません。
やがて小さな村の上にきました。下を見れば大勢のお百姓さんたちが、せっせと働いております。 カメはまたたずねます。
「ツルさん、ここはどこなんですか?」
「あの人たちは、何をしているのですか?」
ツルは、カメの質問に耳をかさずに飛んでいましたが、あまりし つこくたずねるので、ついうっかりと
「う、ん、ここはね…」
と返事をしかけました。そのとたん、カメのからだはツルの口からはなれて、まっさかさまに村のまん中に落ちていきました。 せっかく命びろいをしたしたのに、カメは自分の軽がるしいおしゃべりのために、自分で自分の命をなくしてしまいました。
やがて村人にとらえられたカメは、焼きすてられてしまったのです。 それを見たツルは
「おしゃべりもすぎると、自分も人も傷つき身を害するんだな…」
と、つぶやきながら悲しげな目をして、遠くへ飛びさっていきました。