むかし、インドのコーサラ国の都シュラーバスティーに、スダッタという長者が 住んでいました。スダッタは、となりのマガダ国の都ラージャーガハへ、商用で よくでかけました。そのころマガダ国には、お釈迦さまがたくさんのお弟子をつれられ、人びとに教えを説いておられました。
スダッタは、はじめてみるお釈迦さまの姿に、心のひきしまる思いと温かい安らぎをおぼえ、宿に帰っても、眠ることができませんでした。もともと信心ぶかいスダッタは、ある日のこと、お釈迦さまに
「お釈迦さま、ぜひ一度わたくしの国シュラーバスティーにおいでください。 そして、教えを説いてください。国のものたちは、大よろこびをするにちがいありません。 お住みになるところも用意して、おまちしております」
お釈迦さまは、スダッタをじっとごらんになり、しずかにうなずかれました。
やがて商用をすませたスダッタは、急いでわが家にもどりました。 それからのスダッタは、お釈迦さまのお住まいをどこにしようかと、そればかり考えておりました。便利がよくて、人があつまりやすく、それでいて静かなところはないものかと、 あちらこちらと探しもとめていました。
ある日、ふと思いつきました。それはこの国の太子、ジェータ王子のもっている庭園です。 そこには、林や池があって、美しい花がいつも咲いている、とてもすばらしいところです。スダッタは、すぐにジェータ王子のところへかけつけました。
「王子さま、おねがいがあります。私にあの庭園をゆずっていただけないでしょうか」 すると王子は
「スダッタよ、庭園をどうするのか」
「じつは僧園をつくりたいのです。あの庭園は、とても気にいっているのです。おねがいです。ぜひゆずってください」 「スダッタよ、あの庭園はおまえにゆずるわけにはいかないのだ」
「そんなことをいわずに、ぜひおねがいします。 どうして もほしいのです」
「あの庭園だけはだめだ」
「そうですか、だめなんですか。 それでは王子さま、あの庭園をわたくしに買わせてください。 いくらでもおはらいします」
「なぜおまえは、そんなにあの庭園をほしがるのだ...」
「王子さま、 いまマガダ国にお釈迦さまがおられます。とてもすばらしい仏さまです。その仏さまをわたくしは、この国におまねきする約束をしたのです。 こういう機会は二度とありません。そのための僧園をつくりたいのです。だからどうしてもあの庭園がほし いのです。 おねがいします」
しばらく考えていた王子は
「よくわかったそんなにおまえがほしいのなら、その庭園に黄金をしきつめたぶんだけおまえにゆずってやろう」
それを聞いたスダッタは、さっそく黄金を車にいっぱいつんできて、庭園にしきはじめましたが、とてもひろいので、わずかに入り口のところだけしかしくことはできません。
「おいどんどん黄金をもってくるんだ。 この庭園ぜんぶにしきつめるんだ」
と、いっしょうけんめいにしきつめていきました。
それをみていたジェータ王子はおどろいて
「スダッタ、 黄金をしくのはもうよい。 わたしはおまえのその心に負けた。よろしい、この庭園をおまえにゆずろう。 だからもう黄金をしくのをやめよ。 よいか、そのかわり仏さまにはじゅうぶんに供養するんだぞ」
こおどりしてよろこんだスダッタは、大ぜいの人びとをよびあつめ、またマガダ 国にいるお釈迦さまの弟子シャーリプトラをよんで、いろいろと意見を聞きながら、修行するところ、料理をつくるところ、 水をくみあげる井戸とか便所、そのほか、教えをもとめてくる人びとのふれあいの場など、どんどんと工事をすすめていきました。
スダッタをはじめ、仏さまを慕うおおくの人びとがあつまり、やがてすばらしい 僧園ができあがりました。スダッタはその僧園をジェータ園林 (祇園精舎・ぎおんしょうじゃ)と名づけ、さっそくお釈迦さまをおむかえすることになりました。