ある国に、とても情け深い王さまがいました。この国は小さくて貧しい国です。 王さまは人々の暮らしが、少しでも豊かになるように、いつもいつも心をくだいていました。
人びとは、そのような王さまを心から信頼し、力をあわせていっしょうけんめいに働きました。その甲斐があって国は栄えだし、人びとは豊かな生活ができるようになりました。
それを見とどけた王さまは、安心をしたのか、しばらくして病の床につき、いく日もたたずして亡くなってしまいました。人びとは 嘆きと悲しみで仕事も手につかず、ただ、家にとじこもり、みんなで悲しみをわかちあったのでした。
それから……、つぎの新しい王さまも、そのまたつぎの王さまも、みんな、はじめの 王さまのいいつけをよく守り、国を治めましたので、人びとは安心して暮らすことができました。三人目の王さまのとき、みんなが幸せに馴れたころのことです。
この王さまは豊かな国を受けついだため、 貧しさということがよくわかりません。そのために、豊かな者と、貧しい者とのあいだがだんだんとひらいてきました。豊かな者はま すます豊かになり、貧しい者はますます貧し くなってきたのです。街のあちらこちらで貧しい者たちの不平不満の声がささやかれるようになりました。心配した一人の大臣は、
「このままではたいへんなことになります。むかしのように安心して暮らせるように改めなければなりません。さいわいにして、まだ国には、りっぱな学者たちが 大勢います。その者たちを集めて、良い方法はないものかと、おたずねになってはどうでしょうか……?」
と、王さまに 向かって言いました。すると、王さまもさっそくその者たちを集めることにしました。
王さまは学者たちに、はじめの王さまのことからよその国のことまで、いろんなことをたずねました。そして、いろいろな国のきまりを改めました。でも、一人暮らしのお年寄や特に貧しい者にまでは、思うように手が 届きませんでした。
ある日、役人が盗人を捕らえ、王さまの前に引きすえました。王さまは、
「おまえはほんとうに盗みを働いたのか」
「はい、たしかに働きました。 私は貧乏で、 食べるものもろくろく口にしておりませんので……。やむなく人のものを盗みました」
それを聞いた王さまは、金庫のなかからお金をだして与えました。
「さあ、これをもって両親や子どもたちに食べものを与えろ。よいか、二度と盗みなどを働いてはいけないぞ」
とゆるしてやりました。このことが人びとの耳にはいり、つぎからつぎへと伝わっていきました。今日もまた、王さまの前で、
「はい、子どもに食べさせるものがなく、つい盗みを働いてしまいました……」
すると王さまは、いつもと同じように金庫の お金を与えながら、
「さあ、これで子どもたちに食べものを与えろ。よいか、二度と盗みなどを働くんではないぞ」
と、ゆるしてやるのでした。
ところが、はじめのころは生きていくためおそるおそる小さな盗みを働いていた者が、いつのまにか味をしめて、わざと盗みを働き王さまにウソをついてお金をせしめるようになりました。なかには仕事もしないで盗みを働く者もでてくるようになり、王さまは困ったことだと考えこんでしまいました。
ある日のこと、王さまから「おふれ」がだされました。
「これから盗みを働いた者は取調べのうえ、 縛りあげて街の中を引き回し、処刑する」
という厳しいを与えるという「おふれ」 つた です。 このことはすぐに伝わり、盗みを働く者は少なくなってきました。でも、すべてな くなったのではありません。 今日も捕らえら れてきた盗人は、
「めっそうもない。 私が盗みなどを働くわけがありません。それはなにかのまちがいで しょう。まったく身に覚えがありませんよ」
と、平気でウソをつくようになりました。
盗人たちは一度ウソをつくと、そのウソをほんとうらしく思わせるため、つぎからつぎ へとウソをついては、捕まらないようにいろ いろと知恵を働かせるようになりました。
なかには、「どうせやるなら」とばかりに人を傷つけたりして、本物の悪いわるい盗人にまで落ちてしまう人もいました。
昔から言われています。 ウソは泥棒のはじまりである、と