むかし、ビンバサラという王さまがいました。
王には子どもがいませんでした。妃のイダイケとニ人、「どうか子どもに恵まれますように」と祈りました。
あるとき、その祈りを聞いた仙人は、
「わしが死んだら、生まれかわって子になってやろう」と約束したのです。
ところが、いつまでたっても仙人は死にません。
王は待ちきれなくなり、じぶんの欲望をかなえるために仙人を殺してしまいました。
やがて妃は元気な男の子を産みました。
お祝いにやってきた占い師は、赤ん坊の顔を見て、「この子は将来、父王を殺す」と言いました。
仙人を殺した報いかと王は不安になり、赤ん坊を城の上から投げ殺そうとしました。
けれども思いとどまり、王子は死なずにすみました。王子はアジャセと名づけられ、皇太子となったのです。
その国に、ダイバダッタというお釈迦さまのいとこがいました。
彼は邪悪な心の人でした。彼はアジャセに言いました。
「釈迦を殺しておれが新しい仏になる。あなたは父王を殺して新しい国王となられよ」。
アジャセは父王を捕らえ、牢に入れました。
妃のイダイケは王のもとへこっそり食べ物を運びます。その母もつかまり、ビンバサラは腹をすかせて死にました。
新しい国王になったアジャセですが、罪の意識に苦しむ後悔の日々が続きます。
心の病いは身の病いを呼び、アジャセの全身はみにくくただれ、膿で覆われてしまいました。
あるとき、アジャセは、いまは亡き父の夢を見ました。
「アジャセよ。お釈迦さまのもとへ行け。そなたの救いはそこにある」
アジャセは、お釈迦さまのもとを訪ねました。
「王よ。小さな罪でもざんげしなければ、苦しみのもととなる。けれども、どんな大きな罪ても、心からざんげすればその罪は消える。心からざんげして、清い心を取り戻すのです」
お釈迦さまの神々しいお姿を拝み、お釈迦さまの希望に満ちたお言葉を聞いて、そんなとき、アジャセの心の闇は晴れました。
心の病いがなおると同時に、身の病いも全快していました。
アジャセ王はその後、お釈迦さまの信者となって幸せな日々を送りました。