キツネのご法門
昔むかし、須弥山の山の頂上に、寺見城(きけんじょう)とい うお城が建っていました。
お城の主人の帝釈天(たいしゃくてん)は徳のすぐれた神さまで、そのお力のすばらしさは、
人間界の王さまなどと、比べることもできません。
それにもまして帝釈天の、仏の教えを慕うこと、誰にも負けない立派なものでした。
「どこかに、仏さまの教えを知っているものはいないものか・・・」
「おそれながら申しあげます。年老いたキツネが一匹、ほんのわずかのご法門を知ると聞いておりまする」
そう聞いた帝釈天が思うには、ぜひともキツネに教えを説いてもらいたい。
そこで、天の上からキツネを見つけ、頭を下げて言いました。
「どうか仏さまの教えをお説きください」
するとキツネは首を振り、
「教えるわたしが下にいて、教わるそなたが上にいる。そんなアべコべあるものじゃない」
帝釈天はなるほどと、天の上から飛び降りて地上に座りなおします。それでもキツネはなおもまた、
「教える師匠と教わる弟子が同じ地面に座ってる。師弟同座ては不十分・・・」
やっぱりウンと言いません。
帝釈天はうなずいて、着ていた衣を脱ぎました。
その美しい衣を地面に拡げ、両手を合わせ頭を下げて、謹んでキツネに言いました。
「どうかこの服の上にお座りください。そして、 仏さまの教えをお説きください」
地面の泥の上にひざまずく帝釈天のその姿。 キツネはようやくうなずいて、一句の教えを説きました。
教えを聞いた帝釈天。仏の教えのありがたさ。 忘れることなくいついつまでも、喜びかみしめおりました。