衣裏繋珠
衣裏繋珠
むかし、あるどころに、それはそれは貧乏な男が住んでおりました。
男はある日、古い友人と道でバッタリ出会いました。 友人はたいそう喜び、男を自宅へ招待しました。
招かれた友人の家 は、目を見張るような大郎宅でした。
友人は召使いに命じて、男が見たこともないような高価なお酒や、豪華な料理を、たくさん用意させました。互いにお酒を酌み交わし、思い出話に花をさかせました。
いつしか男は酔っぱらい、ぐっすりと寝込んでしまいました。
夜が明けました。役人をしている友人は、急用ができて早朝から地方へ出かけることになりました。
そうなると、ぐっすり寝ている男のことが気がかりでなりません。 男の着物の裏にたいへん高価な宝石をひとつ、こっそりと縫いつけてやりました。
しばらくして男は目が覚めました。友人に挨拶もせず別れることを残念に思いましたが、しかたありませ ん。トボトボとまた異国の地へと旅立ちました。
男はまた、もとの貧乏ぐらし。その日を食べていければ満足の毎日でした。
それから何年か経ったある日、男は友人と再会しました。
友人は、男があいかわらず貧乏をしていることに驚きました。
「きみは何をしているんだ。着物の裏に宝石を縫いつけておいたのに・・・・・・
ほら、ここにあるじゃないか。これを元手にすれば、どんな商売だって思いのままだろう。
一生豊かなくらしができるほどの価値がある宝石に、気がつかないなんて」
男は目の前がパッと明るくなった気がしました。友人の言葉にすなおにしたがい、
豊かなくらしを手に入れたのてした。