竜女(りゅうにょ)の成仏
海の底に竜宮城があることは、皆さんよくご存知のことでしょう。
竜宮城には、娑竭羅竜王(しゃからりゅうおう)という王様がいて、多くの竜族の者たちを従えていました。
竜族というのは畜生です。親子の関係すらわきまえないといわれるほど無知な生き物てすが、その中にあって竜王の八歳になる娘だけはたい へん智慧のすぐれたやさしい娘でありました。
あるとき、地上からお釈迦さまのお弟子・文殊菩薩(もんじゅぼさつ)が竜宮城を訪れ、法華経をお説きになりました。
竜王はもとより、多くの竜たちが文殊菩薩にお教化され、お釈迦さまの信者になりました。もちろん、竜女も信者の一人になりました。
文殊菩薩がお釈迦さまのもとへと帰ってきました。
「竜宮城ですぐに成仏した者がいましたか」智積菩薩(ちしゃくぼさつ)がたずねました。
「娑竭羅竜王の八歳になる娘が成仏しました」文殊菩薩がこたえました。
「そんなことはないでしょう。お釈迦さまでさえ無量劫という長いあいだ修行をかさねて、やっと成仏されたのです」智積菩薩が詰め寄りました。
「そうですよ。そもそも女は汚れていて成仏できないと言われているのを、ご存知ないのですか」今度は舎利弗尊者(しゃりほつそんじゃ)が加勢しました。
そこへ竜女が現れ、持っていた宝の珠をお釈迦さまにお供養しました。
「私がさしあげた宝珠をお釈迦さまが受け取られたのよりも、私の成仏はもっと早いのですよ。さあ、ご覧なさい」
言い終わるや否や、竜女はあっという間に成仏し、多くのお弟子に法華経を説く姿を示したのてす。
これには智積菩薩も舎利弗尊者も、ただ黙って信じる以外にありませんでした。